「マダム、休日はいかがお過ごし?」コロンバンにて|2022/8/12 日記

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08/12/2022

夏季休暇を取得し、今日は仕事はない。

起床は7:45。

いつもより涼しい朝のおかげもあって、気分良くぐっすり寝込んでしまった。

重めの身体を起こした後に、猫のポーズをして背筋を伸ばす。

 

休日といえど怠けてはいけないと思い、今日は休暇を取らず仕事をすると言っていた同居人の始業時間に合わせて作業をすることにした。

昨日の打ち合わせについてのメールや、ネットショップの設定変更、レポートの見直し、新しい記事のリサーチ作業をした。

気づけば、9:50。

急いで、新宿へ行く準備をしなければならない。

 

 

今日は11:00から“マダム”との約束がある。

マダムは学生時代、アルバイトしていたお店の常連客でかれこれ5年以上の付き合い。

東京の上品なおばあちゃん、出会ったところもパリにゆかりのある場所だったから僕が勝手に“マダム”と呼ぶことにした。

向こうは「ばあば」と呼びなさい。と言ってくるので、たまに「ばあば」とも呼ぶ。

同じ丑年。今年73歳。「東京のばあちゃん」みたいな存在だと思ってる。

6月を最後に顔を合わせなかったので、

「マダム、お盆はいかがお過ごしで?お食事でもいかが?」

と2,3日前にお誘いのLINEを送っておいた。

(※この73歳のマダム、iPhone SEで写真をとるは、アプリでクーポンを発行できるは、動画もみるは。つまりは天才高齢者)

すると、

「特に用事はないです。あなたは実家に帰らないの?何が食べたい?」

「では、会いましょう。実家に帰る予定もないので…。12日(金)はどうです?前に写真をくれたローストビーフ丼が食べたいです」

「そ、では新宿のデパートでお昼一緒に食事しましょう!」

とのこと。

 

 

待ち合わせはデパートにある、条件付きの人が知っているようなエリア。

「あなたの名前を受付で伝えて、座って待っていて」

とメッセージがあったので言われた通りにそうして、到着したことを伝えておいた。

集合時間を過ぎていたので、何かあったのかと少し心配になったが、マダムは11:15くらいにやってきた。

「ごめんね、遅れてしまって。私、スマホを忘れてしまって」

なるほど、だから返信がなかったわけか。

「何かあったかと思って少し心配したよ。たまに忘れることもあるさ」

「心配してくれてありがとう。でもね、スマホを忘れたこと私ないの」

そう、絶対にない。マダムは絶対に忘れ物はしない。

「とにかく無事に会えて良かった。久々だね」

「うん、良かった。あなた少し痩せたんじゃない?頬のあたりが。コロンバンが開店するまで少し時間があるから、少し座ってお話しましょ」

「また痩せたのかな、ゆっくり座って待とうか」

僕は対面で会うときはタメ口でマダムと話す。マダムもそうしなさいと言う。

それから20分くらい色んな話をした。引っ越した後の暮らしはどうとか、お姉さんとは最近どうだとか、この前奮発してジュエリーを買ったの、だとか。

そろそろ時間だねと話して、コロンバンへ向かう。

 

コロンバン

 

席についてメニューを眺める。

「私は今日は鶏肉を食べようかしら」

「僕はローストビーフ丼で」

お互いにメニューが決まり、手を挙げてマダムは名指しで店員さんを呼ぶ。どこへ行っても知り合いばかり。どこでその人と仲良くなり、なぜそんな記憶力があるのか毎回不思議に思う。

「私はチキンソテー、彼は、いや私の“ボーイフレンド”はローストビーフ丼で」

と、いつもの茶番をやってのける。僕はマダムとマダムの知り合いの前ではボーイフレンドでなければならない。

「どこでこんな青年と仲良くなれるの?」

「私若い子好きだから、いつも若い子に話かけるのよ。彼はあの時とても親切に接客してくれたから今でもずっと好きなの、あれからずっと仲良しなの」

「素敵ですね。〇〇さんをよろしくお願いしますね」

「はい、おまかせください」

いつもそうやって僕のことを紹介してくれる。そうやって僕は新しい方とお酒を飲んだり、食事に連れて行ってもらってる。

それとマダムは人と話す時に僕のことを必ず「彼」という。「この子」とか「〇〇くん」とは言わない。普通の人であれば特段気になることではないと思うが、そういった小さなことから僕はマダムの上品さを感じる。

 

ローストビーフ丼

 

注文したものが一通り届いて、それぞれ食べる。

「毎回あなたに会うたびに思うことだけれども、こんなにずっと仲良くしてくれるとは思わなかったわ」

「ほんとだね。かれこれ5年の付き合いだね」

「5年?もっと長いんじゃない?」

「いや、僕が20になる少し前のあるシフトの日にマダムに会って、ご友人のプレゼントを一緒に選んだんだよ」

「そうだったわね。でもあのときはお店で会うだけで、こうやって別の場所であうことはなかったわね」

「うん、僕がアルバイト先のラスト勤務日にLINEを交換したんだ」

「そうそう」

「あの日20時くらいだったかな、仲間と居酒屋で打ち上げをしていた時にお店から急に電話があったんだ。最後の勤務日に僕が原因でトラブルを起こしたのかと思ったら『〇〇さんが見えてますよ』っていう電話で。あの時居酒屋から走ってお店に戻ってマダムにお別れの挨拶ができたからこそ今があるんだ。って思うと今でもすごく感慨深いよ」

「うん、何でもそうタイミングってすごく大切なんだと思ったわ。もし、あの時あなたがシフトに入っていなかったら仲良くなれるきっかけもなかったし、いろんなタイミングが合わさって今があるのね。ところで、ローストビーフはいかが?」

「あのね、いつこの美味しさを爆発させようかと思っていたんだけど、すっごく美味しいよ。ありがとう。」

今日一のクシャッとした笑顔で僕を見る。

 

 

ご飯を食べ終え、お会計を済ませ、店を出る。目の前にアイスクリーム屋さんがあった。

「食後のデザートなんかどう?」

「いいね、夕張メロンアイスだって。コーンに乗せてもらってそこで食べようか」

マダムは上品な一面もあるが、常設されてはいないだろうデパートの隅に置かれた丸型のパイプイスでアイスクリームを食べられる庶民的な一面もある。こないだは有楽町の高架下のサラリーマンしかいない居酒屋でビールと牡蠣を一緒に食べた。

そこでもいろんな話をした。

最近はこれにハマっているだとか、恋の話だとか、今度函館に行く話だとか。

「とにかく、自由な私は最高よ。ところで、アイスクリームはいかが?」

「ばあば、すっごく美味しいよ」

またクシャとした笑顔でこっちを見る。

 

アイスクリーム

 

帰りはこれまた色んな知り合いと会話をしながら、階を下る。

ジュエリーショップの店員とは最近のルースはどうだとか、服飾の材料を扱う店員にはなぞのカタログを渡しに行ったり。とにかく良く歩くし、良く話すし、よく笑う。

「新宿駅の改札へはこのエレベーターで向かうわ」

「そっか、僕はこのあと渋谷でやることを済ませて帰るよ」

「また近いうちに遊ぼうね、こっち(自宅)の方にも来るんだよ」

「もちろんだよ」

「では、“ごきげんよう”」

「“ごきげんよう”」

これほどまで上品な別れなのに、グータッチをして別れるという欧米スタイルも持ち合わせている。

マダムが生まれた時代は、異国文化の醸成期。

 

(渋谷にて)

08/12/2022

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